アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis:AD)は、皮膚科領域ではcommon diseaseの1つであり、医師・患者ともに向き合う時間は長い。しかし、シクロスポリンの登場以降、本邦では約10年間にわたり新薬がなく、治療における「次の一手がない」という状態が続いてきた。
こうした中、2018年1月19日に「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」を適応とする初めての生物学的製剤としてデュピクセント®(デュピルマブ[遺伝子組換え])が承認され、薬価収載を経て同年4月23日より臨床使用可能となった。
そこで今回、AD治療のエキスパートとして活躍されている4人の先生方に、デュピクセントの作用機序、有効性と安全性のエビデンスについて紹介いただくとともに、適正使用や新しい治療への期待についてディスカッションしていただいた。
司会
加藤 則人 先生
京都府立医科大学皮膚科教授
コメンテーター(五十音順)
五十嵐 敦之 先生
NTT東日本関東病院
皮膚科部長
コメンテーター(五十音順)
大槻 マミ太郎 先生
自治医科大学皮膚科教授
コメンテーター(五十音順)
佐伯 秀久 先生
日本医科大学皮膚科教授
AD治療の現状と課題
加藤:
ADでは皮膚に炎症が生じることにより皮膚バリア機能が低下し、また痒みが生じると搔破によりさらに皮膚バリア機能が低下し炎症や皮膚症状が増悪します。そのため現在のAD治療においては炎症を抑制することがきわめて重要であると考えられており、皮膚で生じた炎症をステロイド外用薬やタクロリムス軟膏で抑えることが基本となっています。外用療法により寛解が得られれば、ステロイド外用薬あるいはタクロリムス軟膏を漸減して寛解を維持していきます。特に中等症から重症のAD患者さんで、それらの外用療法で寛解導入できなかった場合には、例えばステロイド外用薬のランクを上げる、シクロスポリンを併用する、紫外線療法を併用するといった治療が行われてきました。先生方はAD治療の現状についてどのようにお考えでしょうか。
佐伯:
従来のAD治療において、特に中等症以上の場合には治療に難渋するケースも一定数あり、従来治療では解決できない課題が残されていました。
五十嵐:
乾癬治療においては2010年以降生物学的製剤をはじめとする新薬が相次いで上市されて治療の幅が急速に広がりました。それとは対照的に、AD治療においては選択肢がとても限られていたと思いますので特に中等症以上の患者さんは新しい治療を待ち望んでいたかと思います。
デュピクセントの臨床的有用性
加藤:
近年では基礎研究に基づくADの病態解明も進んでおり2型サイトカインの役割が明らかになってきました。中でもIL-4/IL-13は、例えばTARCなどの2型ケモカインの産生誘導やTh2細胞、好酸球の局所への動員、フィラグリンなどの表皮バリア機能に関連するタンパク質の発現抑制、2型サイトカインによるアレルギー炎症に重要なTSLPの産生亢進など、ADの病態において重要な役割を果たすことがわかっています(図1)1)-11)。このIL-4/IL-13を標的とした受容体モノクローナル抗体であるデュピクセントは、ADの病態に直接的にアプローチできる治療薬であり、期待されています。
次にデュピクセントのAD患者における有効性と安全性について佐伯先生にご紹介いただきたいと思います。
佐伯:
国際共同第Ⅲ相臨床試験(CHRONOS試験)12)13)は、18歳以上、病歴3年以上で、既にMedium〜Highクラスのステロイド外用薬の投与で効果不十分、皮膚病変IGA(Investigator’s Global Assessment)スコア3以上、EASI(Eczema Area and Severity Index)スコア16以上、体表面積に占める皮膚病変の割合10%以上、週平均のそう痒NRS(Numerical Rating Scale)スコアが3以上といった、中等症から重症のAD患者を対象としています。デュピクセントを初回600mg、以降は300mgを2週に1回皮下投与する群と300mgを週に1回皮下投与する群(国内未承認)、そしてプラセボ群との3群間並行比較試験で検討がなされました。デュピクセントの本邦における適応は、「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」ですが、原則として病変部位には抗炎症外用薬を併用することとされており、本試験の治療成績が実臨床に近い状態で得られたということがわかります。
主要評価項目は、16週時においてEASIスコアがベースラインから75%以上改善した(EASI-75)患者の割合であり、デュピクセント300mg/2週投与群において68.9%、プラセボ群で23.2%でした。また、副次的評価項目であるEASI-50(ベースラインから50%以上改善)では各々80.2%、37.5%、EASI-90(ベースラインから90%以上改善)では39.6%、11.1%と、いずれもプラセボ群に比べデュピクセント群で有意に高い改善が得られました(図2)。また、52週におけるEASI-75は62.3%であり、デュピクセントの効果が維持されることが示されました。経時的なEASIスコアの変化率を見ると、デュピクセント投与開始2〜4週でー50%を超え、16週では-80%となり、52週まで維持されており、効果が速く長期にわたることが示されました(図3)。
患者さんの効果の実感に大きくかかわると思われるそう痒NRSスコアの変化率も、投与開始後2週時よりプラセボ群と比べ有意な低下を示し、52週にわたり維持されており(図4)、症状の改善がかなり速いという印象があります。皮疹の改善を介したそう痒の改善のほかにも、間接的に痒みの誘発に関連するIL-31を抑制すること、さらにIL-4やIL-13の阻害が直接痒みを抑えるとの報告もあり14)、早期からのそう痒の改善が期待できるようです。
加藤:
五十嵐先生は治験に参加されていましたが、患者さんの印象などいかがでしょうか。
五十嵐:
デュピクセントを使用した患者さんに印象を聞いてみましたが、早期の段階で効果を実感している様子で、かゆみの改善も見られたとの声もあり、表情が晴れやかになって本当に喜んでおられたのが印象的でした。
加藤:
AD患者さんが何を改善したいか? 私自身は「見た目」と思っていましたが、患者さんに聞いてみると3分の2ぐらいが「痒み」と答えられ、驚いた経験があります。痒みが早期から軽減し、かつ皮疹の改善も得られるのは臨床医にとっても非常にありがたいです。
CHRONOS試験ではデュピクセント300mg/2週投与16週時のEASI-50が80.2%、EASI-75が68.9%、EASI-90が39.6%ということでしたが、AD治療の有効性についてはどのように考えればよいのでしょうか。
大槻:
治療開始4ヵ月で約8割の方の症状が半分程度に改善し、約7割の方が75%改善、約4割の方が90%改善したというデータは、患者さんの治療意欲を向上させることができると思います。ただ、EASIは皮疹の範囲と重症度の指標であって痒みの状態が反映されておらず、AD患者さんの全体の重症度を表しているとは言えないため、データの解釈には少し注意が必要です。痒みに関しては、そう痒NRSスコアの早期からの改善が認められていますので、これらのデータを総合的に解釈することが大事だと思います。
デュピクセントの安全性
加藤:
デュピクセントの安全性についてはいかがでしょうか。
佐伯:
CHRONOS試験における副作用発現率は、プラセボ+ステロイド外用薬群の29.2%(92/315例)、300mg/2週群及び300mg/週群を含むデュピクセント群で34.6%(147/425例)でした。デュピクセント群の主な副作用は注射部位反応、頭痛、アレルギー性結膜炎等でした。また、重篤な有害事象はプラセボ群で16例(蕁麻疹1例、AD1例等)、デュピクセント群で14例(皮膚有棘細胞癌2例、AD2例等)に認められました。投与中止に至った有害事象はプラセボ群で25例(AD15例等)、デュピクセント群で11例(注射部位反応2例等)でした。生物学的製剤のため副作用への注意は必要なものの、開発臨床試験における副作用プロファイルでは、アレルギー性結膜炎のみが注目すべき副作用として挙げられます。詳しい原因は不明のようですが、アレルギー性結膜炎のほとんどは軽症から中等症で、ステロイド点眼薬などで改善したということです。
加藤:
結膜炎の可能性をあらかじめ患者さんに伝えるとともに、症状が現れた際には眼科と連携する必要があるということですね。
デュピクセントの適正使用に向けて
加藤:
デュピクセントの使用にあたっては、厚生労働省から最適使用推進ガイドライン15)が公表されています。使用する施設については、まずADの診断及び治療に精通している医師が責任者として配置されていることが求められています(表1)。
そのほか喘息などのアレルギー性疾患合併患者さんを念頭に連携体制が整っていることも求められていますね。
大槻:
アトピー性皮膚炎を対象とした海外臨床試験において、喘息を合併しているアトピー性皮膚炎患者1例で、本剤の最終投与から約2ヵ月後に喘息の悪化による死亡例が報告されました。当患者は観察期間を含む試験期間中に、喘息の治療薬が投与されていなかったようです。デュピクセント投与によって喘息の症状が変化する可能性があり、それまで継続していた喘息治療の基本となる吸入ステロイド薬などの服用を自己判断で怠った場合、喘息の症状が急激に悪化するおそれがあります。したがって、あらかじめデュピクセントを開始する前に、喘息の合併の有無とともに、喘息を合併している場合には主治医とその治療内容を確認しておくことが重要で、患者さん自身の判断で喘息治療薬の服用を変更しないよう注意する必要があります。連携の体制づくりに際しては、喘息の主治医とAD治療の主治医を結びつけるようなツール「デュピクセントを使用される患者さんへ」のポケットカードなどを活用することも有用です。
加藤:
喘息はときに生命にかかわることもある疾患ですから、呼吸器アレルギーの専門医と連携できる体制が求められているということですね。
デュピクセントの適応患者と疾患活動性評価
加藤:
最適使用推進ガイドラインでは、投与対象となる患者さんについてはADの診断が確定していることに加えて、ステロイド外用薬(ストロングクラス以上)またはタクロリムス軟膏による適切な治療を直近の6ヵ月以上行っていることと記載されています(表2)。そして抗炎症外用薬による治療で十分な効果が得られず、しかも一定以上の疾患活動性を有するAD患者さんが対象になります。
疾患活動性に関しては3つの項目があり、IGAスコア3以上、EASIスコア16以上または顔面の広範囲に強い炎症を伴う皮疹を有する場合(目安として頭頸部のEASIスコア≧2.4)、体表面積に占める病変の割合が10%以上という項目のすべてを満たす必要があります。EASIは全身の評価をするため、例えば顔面の炎症が非常に強く体幹・四肢の炎症がそれほど重症でなければEASIスコアが16未満という患者さんもいるかもしれないことからこのような記載になっていると思います。
大槻:
EASIスコアに関して1つ心配なのは、非常に痒みの強い痒疹結節主体のAD患者さんの評価をどうするかということだと思います。3つの項目をすべて満たすとなると、痒疹結節の場合は四肢に局在することが多いため体表面積に占める病変の割合が10%以上になることは少なく、最適使用推進ガイドライン上の要件から外れてしまいます。同様にEASIの評価項目である紅斑、浸潤/丘疹、搔破痕、苔癬化のうち紅斑と苔癬化は痒疹結節の病変には当てはまらないので、浸潤/丘疹、搔破痕のスコアが満点にならないとEASIスコア16以上にならないと考えられます。「しつこい痒みをなんとかしてほしい」と訴える患者さんに対して「EASIスコアが足りないので使用することができません」という対応になってしまい、現在のガイドラインではせっかく有用な薬剤が使用できない可能性もあります。
佐伯:
おっしゃる通りで、痒疹結節が主体のAD患者さんではEASIスコア16以上に該当することが少なく、今後はそのような病型の評価方法も考える必要があると思います。
五十嵐:
ADの場合、乾癬ほど健常皮膚と病変部との境界が明瞭でないことも多いので面積を正確に評価しにくいですし、病変部の重症度についても評価者によってばらつきが大きいかもしれません。治験ではもちろん疾患活動性の評価が必要になりますが、実臨床で運用するために有用な方法についてはまだ検討の余地があると思います。
加藤:
手のひらの病変が重症でQOLが大きく低下しているにもかかわらずEASIスコアでは反映されないという症例も少なくないと思います。また、シクロスポリン内服によりEASIスコアは16未満に抑えられているけれどもそれ以上の改善が見られない場合にどう対応するのかというところも今後の課題です。
デュピクセントの投与の継続にあたって
加藤:
治療をいつまで続けるのかについては、患者さんから必ず聞かれると思います。デュピクセントの投与継続に関しては、CHRONOS試験における有効性評価時期である投与開始16週時点で治療反応が得られない場合には中止するとされています。そして、外用薬とデュピクセントを併用し、目安として寛解の維持が6ヵ月程度得られれば、抗炎症外用薬や外用保湿薬が適切に使用されていることを確認した上で、一時中止等を検討することとされています。寛解についてはどのように考えればよいでしょうか。
佐伯:
確かに寛解の定義はとても難しいのですが、EASIスコアが0に近い値を2年程度維持された症例は、投与中止後約6ヵ月経過しても再燃しない場合があります。IGAでは0または1(皮疹なしまたは軽微)を寛解と考えて、それを6ヵ月程度維持できれば中止することも可能かもしれません。
加藤:
IGA0または1の場合には、そう痒NRSスコアでは何点ぐらいなのでしょうか。
佐伯:
私の経験ではその段階で痒みもほぼ0になっていることが多いです。
大槻:
ADの寛解を判断する上ではIGAスコアが0または1の状態まで改善することに加え、増悪因子である痒みがない状態にあるかどうかが特に重要だと思います。
五十嵐:
私のデュピクセントの使用経験では、紅斑など見た目の皮膚症状よりも先行して痒みが軽減するケースもありました。
加藤:
「現在の痒みは何点ですか」と患者さんに聞くのは簡単なので、診察時には必ず患者さんに聞くようにすることをお勧めしたいです。それとともに、デュピクセントによる治療により症状が改善してくるとだんだんと外用薬を塗るのが面倒になってしまうことも予想されるので、仮にデュピクセントの中止を考慮する場合にはAD治療及び維持療法の基本は外用療法であることを再確認して継続することが大事です。
五十嵐:
最適使用推進ガイドラインでは医療費抑制も念頭に、寛解を6ヵ月程度維持できたら中止を考慮するとなっていますが、「再燃が不安なのでもっと続けたい」という患者さんもいるでしょうし、個々の患者さんの希望を聞きながらベストな方法を探していくことが最終的な患者満足につながると思います。
加藤:
やはり治療中止後の再燃は医師にとっても患者さんにとっても避けたいことだと思います。デュピクセント中止後にADが再燃したために本剤を再開するケースも想定されますが、その場合の疾患活動性の評価はどうなるのでしょうか。
佐伯:
ガイドラインで示されているように、再開する場合には改めて疾患活動性の要件を満たす必要はありません。
AD治療の展望
加藤:
最後に今後のAD治療の展望について、各先生からコメントをお願いします。
五十嵐:
AD治療におけるアンメットニーズは厳然として存在していましたので、治療の選択肢が増えたことは、臨床医にとって非常に心強い限りです。ただし、AD治療及び寛解の維持においてスキンケアの重要性を忘れてはならず、患者さんにもそのことを理解していただく努力を怠ってはならないと思います。
佐伯:
実際に診療していて、新薬が登場することに対する患者さんの期待がかなり大きいと感じています。抗炎症外用薬による治療をベースに、まずはシクロスポリンの服薬が困難な症例やシクロスポリンでもコントロールが難しい症例をデュピクセントの投与対象として検討していきたいです。
大槻:
デュピクセントを導入することにより、ステロイド外用薬を長期連用せざるを得ない症例が少なくなり、タクロリムス軟膏やステロイド外用薬によるプロアクティブ療法を行う必要性も減っていくかもしれません。そうなると外用薬の塗り方にも変化が起こり、ステロイド外用薬の本来の長所、すなわち急性増悪期に用いるメリットを集中的に引き出せるようになれば嬉しいですね。
デュピクセントがAD治療の歴史を変える突破口になって、今後はIL-31を標的とした抗体製剤やJAK1阻害薬などの登場も控えていることを患者さんにお話しできるのは、われわれにとっても喜ばしいことです。
加藤:
このような新しい薬剤が登場してくると、患者さんの治療意欲に刺激を与え、ステロイド外用薬などの基本治療のみで改善する症例も増え、ADの治療全体に良い影響が見られるようになるかもしれませんね。本日はありがとうございました。
参考文献
1)Zheng T et al. J Invest Dermatol 2009; 129: 742-751.
2)Brandt EB et al. J Clin Cell Immunol 2011; 2: 110.
3)Gandhi NA et al. Nat Rev Drug Discov 2016; 15: 35-50.
4)Chen L et al. Clin Exp Immunol 2004; 138: 375-387.
5)Noda S et al. J Allergy Clin Immunol 2015; 135: 324-336.
6)Leung DYM et al. J Allergy Clin Immunol 2014; 134: 769-779.
7)Howell MD et al. J Invest Dermatol 2008; 128: 2248-2258.
8)Gittler JK et al. J Allergy Clin Immunol 2013; 131: 300-313.
9)Danso MO et al. J Invest Dermatol 2014; 134: 1941-1950.
10)Gittler JK et al. J Allergy Clin Immunol 2012; 130: 1344-1354.
11)Kim BE et al. Clin Immunol 2008; 126: 332-337.
12)国際共同第Ⅲ相ステロイド外用薬併用療法試験[R668-AD-1224] (承認時評価資料)
13)Blauvelt A et al. Lancet 2017; 389: 2287-2303.
14)Oetjen LK et al. Cell 2017; 171: 217-228.
15)厚生労働省:抗IL-4受容体αサブユニット抗体製剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項について(保医発0417 第5号 平成30年4月17日)