ショートQ&Aによる病態解説
Q1
顆粒層のケラチン繊維は、角層の内層部で37kDaのタンパク質(A)と凝集し、皮膚の適度な弾力性を保っている。また、このタンパク質(A)は角層の外層部ではアミノ酸に分解され、天然保湿成分となる。このタンパク質(A)の名称は?
A1
フィラグリン。フィラグリンは37kDa(約300アミノ酸残基)からなるタンパク質で、中間径繊維ケラチンを凝集させて上皮の機械的強度と柔軟性を形成している。フィラグリンは顆粒層では10~12個のフィラグリンからなるプロフィラグリン(約400kDa)の形で存在し、プロテアーゼによって切断されフィラグリンとなり、角層の外層部ではアミノ酸やウロカニン酸に分解され、水分保持に働く。アトピー性皮膚炎におけるフィラグリンの減少は皮膚バリア機能の低下と関連すると考えられている1)。
1) Elias PM, et al.: Curr Opin Allergy Clin Immunol. 2009; 9(5): 437–446. “Abnormal skin barrier in the etiopathogenesis of atopic dermatitis.” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19550302
Q2
日本人アトピー性皮膚炎患者におけるフィラグリンの遺伝子の変異の割合は?
A2
フィラグリン遺伝子変異は人種間民族間で著しく異なっている。フィラグリン遺伝子変異とアトピー性皮膚炎の関連が初めて見つかったのはアイルランドで、アトピー性皮膚炎患者の約半数に遺伝子変異が認められた。その後欧米人では同様の傾向がみられることが示唆されたが、日本人では認められていなかった。日本においては、先に尋常性魚鱗癬家系において認められたフィラグリン遺伝子変異に対して、日本人アトピー性皮膚炎患者を対象にスクリーニングしたところ、遺伝子変異は27%に存在していることが示された1,2)。この研究より、フィラグリン遺伝子変異は日本人においてもアトピー性皮膚炎の発症因子になっていることが示唆される。
1) Nomura T, et al.: J Invest Dermatol 128:1436-1441, 2008. “Specific filaggrin mutations cause ichthyosis vulgaris and are significantly associated with atopic dermatitis in Japan.” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18200065
2) Nemoto-Hasebe I. et al.: Br J Dermatol. 2009; 161(6):1387-90. “FLG mutation p.Lys4021X in the C-terminal imperfect filaggrin repeat in Japanese patients with atopic eczema.” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19663875
Q3
バリア機能の破壊された皮膚では抗原の侵入が容易になる。このとき抗原を捉えているのが、表皮と真皮に存在する樹状細胞である。通常表皮の角層より下に存在している樹状細胞はどのようにして抗原を捉えることができるのか?
A3
抗原提示細胞として、表皮の樹状細胞(Langerhans細胞)と真皮の樹状細胞の2つがある。前者は通常、顆粒層のTJ(タイトジャンクション)の内側に存在しており抗原曝露があっても抗原を捉えることはない。しかし、アトピー性皮膚炎のように角層バリア機能が低下している状態では抗原の刺激を受けてLangerhans細胞が活性化し、樹状突起をTJのバリアを超えて角層の直下まで伸ばし、突起の先端で抗原を取得することが示されている1,2)。TJバリアが障害されるような場合、真皮樹状細胞も抗原を捉えることが考えられ、これら2種の樹状細胞は皮膚から所属リンパ節に移動し、ヘルパーT細胞を活性化する3)。
1) Kubo A. et al.: J Exp Med. 2009; 206(13): 2937-46. “External antigen uptake by Langerhans cells with reorganization of epidermal tight junction barriers.” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19995951
2) Yoshida K. et al.: J Allergy Clin Immunol. 2014, 134(4): 856-64. "Distinct behavior of human Langerhans cells and inflammatory dendritic epidermal cells at tight junctions in patients with atopic dermatitis." https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25282566
3) Tomura M, et al.: Sci Rep. 2014 Aug 12;4:6030. "Tracking and quantification of dendritic cell migration and antigen trafficking between the skin and lymph nodes." https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25112380
Q4
アトピー性皮膚炎で上皮由来サイトカインTSLP(thymic stromal lymphopoietin)はTh1型、Th2型のどちらの免疫応答を誘導するか?
A4
Th2型の免疫応答を誘導することがin vitro、および in vivoで示されている。TSLPはthymic stromal lymphopoietinの名のとおり、当初は胸腺ストローマ細胞から産生されるサイトカインとして同定された。表皮ケラチノサイトでは、TLR(Toll-like receptor)リガンド、炎症性サイトカイン、組織損傷など、多様な刺激に反応してTSLPが産生されている。TSLPは未熟樹状細胞(未熟DC)を活性化し成熟化するが、その際、TLRやCD40リガンドで未熟DCを刺激した場合とは異なり、Th1分化誘導サイトカインであるIL-12やTh1細胞遊走性のケモカインCXCL10/IP-10は産生せず、Th2分化誘導因子であるOX40L(リガンド)をDCの細胞表面に発現して成熟化する1)。したがって、Th2型免疫応答が誘導されやすくなっている。さらに、OX40リガンドによって分化したTh2細胞はIL-4、IL-5、IL-13及び大量のTNFを産生する一方IL-10を産生しないため「炎症性Th2細胞」とも呼ばれている1)。
1) Liu Y, et al: Ann Rev Immunol. 2007; 25: 193-219. “TSLP: an epithelial cell cytokine that regulates T cell differentiation by conditioning dendritic cell maturation.” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17129180
Q5
アトピー性皮膚炎でかゆみを誘発するサイトカインは?
A5
アトピー性皮膚炎では肥満細胞から産生されるヒスタミンの他、サブスタンスP、好酸球由来の活性酸素、ケラチノサイト由来の神経成長因子(NGF)など様々なかゆみのメディエーターが知られている1)。サイトカインではTh1が産生するIL-2がかゆみをもたらすことが知られているが、Th2側では、TSLP(thymic stromal lymphopoietin)やIL-4、IL-13やIL-31といったサイトカインによるかゆみの誘発が知られている2,3,4)。TSLPは皮膚バリア機能の低下した状態で、抗原刺激や掻破によって表皮角化細胞より産生されTh2型免疫応答を誘導するサイトカインであるが、TSLP自体が神経細胞に作用し、かゆみを誘導する作用も持っている3)。また、Th2細胞が産生するサイトカインIL-31はかゆみを誘導し、皮膚感覚神経にはIL-31受容体が豊富に発現していることも知られている4)。
1) Kabashima K. et al. J Dermatol Sci. 2013; 70(1): 3-11. “New concept of the pathogenesis of atopic dermatitis: Interplay among the barrier, allergy, and pruritus as a trinity”
2) Campion M et al. Exp Dermatol 2019;28:1501-4. “Interleukin-4 and interleukin-13 evoke scratching behaviour in mice“
3) Wilson SR. et al. Cell. 2013; 155(2): 285-95. “The epithelial cell-derived atopic dermatitis cytokine TSLP activates neurons to induce itch.”
4) Sonkoly E.et al. J Allergy Clin Immunol 2006;117(2): 411‒7. “L-31: a new link between T cells and pruritus in atopic skin inflammation.”
Q6
掻破によって産生が誘発され、Th2細胞を表皮に遊走させるケモカインは何か?
A6
Thymus and activation-regulated chemokine(TARC/CCL17)およびマクロファージ由来ケモカイン(MDC)/CCL22。BALB/cマウスにおいて、テープストリッピング法により角層を剥がし、掻破によるバリア破壊に近い物理的刺激を与えると、表皮細胞からのTARC/CCL17とMDC/CCL22の産生が、亢進することが報告されている1)。Th2 細胞にはCCR4が選択的に発現しているが、TARC/CCL17およびMDC/CCL22はこのCCR4のリガンドとして作用し、皮膚環境をよりTh2型へとシフトさせることが明らかになっている1,2)。TARC/CCL17は、アトピー性皮膚炎の重症度と相関することから3)、その病勢や診断の血清マーカーとなっている。
1) Onoue A, et al.: Exp Dermatol. 2009; 18(12): 1036-43. "Induction of eosinophil- and Th2-attracting epidermal chemokines and cutaneous late-phase reaction in tape-stripped skin." http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Onoue+A+1036
2) Andrew DP, et al.: J Immunol. 1998; 161(9): 5027-38. " STCP-1 (MDC) CC chemokine acts specifically on chronically activated Th2 lymphocytes and is produced by monocytes on stimulation with Th2 cytokines IL-4 and IL-13. " http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=161%5Bvolume%5D+AND+5027%5Bpage%5D+AND+1998%5Bpdat%5D&cmd=detailssearch
3) Shimada Y, et al.: J Dermatol Sci. 2004; 34(3): 201-8. "Both Th2 and Th1 chemokines (TARC/CCL17, MDC/CCL22, and Mig/CXCL9) are elevated in sera from patients with atopic dermatitis." http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15113590
MAT-JP-2008523-1.0-12/2020